契約書における表明保証条項について(全国賃貸住宅新聞12/8号掲載)


         執筆者/AVANCE LEGAL GROUP LPC 代表弁護士   片山 雅也
                                 パートナー弁護士  家永  勲

 M&Aの実行においては、契約書を締結し、当該契約書に基づき、M&Aのスキームを実行することとなります。多くの場合に採用される株式譲渡のスキームであれば、株主と買い手の間で株式譲渡契約書が締結されますが、契約内容は複雑になりがちであり、普段目にする契約書とは一見変わった内容を含んでいます。

代表的な契約条項は、「表明保証」と呼ばれる定めを置くことでしょう。耳慣れない言葉であるのは、英米法における契約書から輸入した定めを直訳しているからと思われます。どのような目的をもって表明保証条項が定められるかというと、対象となる会社が正常な運営をしていることなどを約束(保証)させることをもって、事前の情報提供又は後日の責任追及の根拠とすることを目的としています。たとえば、対象会社においては、M&A実行時点において、労働者に対する未払賃金(時間外及び深夜割増賃金を含む。)が存在しない、といった事実を保証させるといったものです。

表明保証条項を定めることによって、保証できない事実が定められたと株主が判断した場合には、後日の責任追及のリスクを避けるためには、事実をあらかじめ伝えておかざるを得なくなります。上記の例であれば、時間外労働が発生しているにもかかわらず、割増賃金を支払っていないといった実態が存在する場合には、株主は、個人的な責任を追及されることを避けるためには、労働実態等を含めた事実を伝えざるをえなくなります。

しかしながら、表明保証を定めておけば、それで安心かというとそうもいきません。元々、日本法において制度化された定めではないため、日本法における表明保証条項の位置づけについては、様々な議論があります。少なくとも、言えることとしては、表明保証条項は、それ単独の定めとしておくのではなく、表明保証条項に違反していた場合のペナルティを誰がどのように負担するのかという点について、別途定めておかなければならないということがあります。

上記の例でいえば、未払賃金が発覚した場合には、当該未払賃金相当額を株主が賠償しなければならない旨別途定めておかなければ、表明保証も絵にかいた餅になりかねません当初の想定と異なる事実が発覚した場合に責任追及することを想定した契約書の作成を心がける必要があります。

合意が決まりつつある状況で、契約書に詳細な表明保証や損害賠償に関する定めを置くことを躊躇われたとしても、適切なリスクの分担を行っておくことは必要でしょう。

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住み込み介護と労働契約(高齢者住宅新聞12/3号掲載)


執筆者/AVANCE LEGAL GROUP LPC 執行役員・弁護士 家永 勲

近年では、老人ホーム等の介護施設において、従業員と不適切な契約方法をとっていた事案についての裁判例がありましたのでご紹介いたします。

事案としては、老人ホームにおいて、24時間住み込みで要介護者(要介護度4)の方の世話をするというサービスを提供し、介護を担当する方との間では明確な労働契約を締結することなく、職業紹介という形式で介護への従事を求めていたというものです。

老人ホームの主張の骨子は、住み込みでの勤務は労働基準法に違反するため、正社員とは区別して「ヘルパー」としており、職業紹介をしているにすぎず、職業紹介に関する職業安定法の規制を順守しており、賃金の負担は要介護者であり、老人ホームはヘルパーに対する支払を代行していたにすぎず、雇用関係は要介護者とヘルパーの間で成立しているというものでした。

24時間の住み込みの介護を提供するというのは、要介護者にとってはありがたいものかもしれませんが、労働基準法上は、過剰な時間外労働が生じるなど問題があると言わざるを得ません。例外的に認められるとすれば、労働基準法が適用除外とされている「家事使用人」に該当する場合ですが、裁判所は、介護サービスを行う場合には、軽度の作業ではないことを理由にこれを否定しています。

裁判所は、契約の形式はともかく、労働契約関係が認められるか否かは、実質的な使用従属関係及び賃金支払いの在り方等を踏まえて、当事者の合理的意思を探求して判断すべきとしました。より具体的には、多数の書面により老人ホームからヘルパーに対して指示が行われ、休暇取得をするためには老人ホームへの事前申し出が必要であり、老人ホームからの指示によって要介護者へのサービス提供が終了するなど、ヘルパーに仕事の紹介に対する諾否の自由がないことなどを根拠として、ヘルパーと老人ホームの間では使用従属関係があったと判断しました。さらに、賃金の支払についても、職業安定法が、紹介事業者による賃金の支払代行を禁止していることからしても、要介護者が支払うべき賃金の支払を代行していたとは認められず、老人ホームが原告に賃金を支払っていたものと判断しました。

以上のような事情から、形式的には、労働契約がない関係について、労働契約関係を認め、労働基準法を適用した結果、一日当たり20時間の労働時間があったものと認定され、多額の割増賃金の請求が認められました。

裁判例と同じような対応をされている例は少ないと思われますが、業務委託契約など、労働契約関係を締結するつもりがない場合であっても、諾否の事由がない場合などには、思わぬところで労働契約が成立するおそれがあることには注意が必要でしょう。

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人手不足と年次有給休暇について


執筆者/AVANCE LEGAL GROUP LPC 代表弁護士  片山 雅也
                               弁護士     増谷 嘉晃

今回は、年次有給休暇(以下、「年休」といいます)について、説明したいと思います。

年休は、労働者が6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤するという客観的要件(労働基準法39条1項)を充足することによって、法律上当然に発生する権利で、労働者は、年休を取得する日を自ら指定することができます(同法39条5項本文)。

 しかし、物流業界においては、恒常的な人手不足に陥っている企業も多く、たとえば、限られたドライバーのうちの一人に年休を取得されるとなると、業務に支障が生じるおそれがあることから、年休を取得させることができないということもあるのではないでしょうか。

 この点について、労働基準法39条5項ただし書は、使用者は、請求された時季(季節と具体的時期)に年休を与えることが、「事業の正常な運営を妨げる場合」には、他の時季に変更することができるとしています。

 それでは、どのような場合に「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたるといえるのでしょうか。第一に、年休を取得する日において当該労働者の仕事が、所属する部・課・係・プロジェクトなど、一定範囲の業務運営に不可欠である必要があります。そして、第二に、代わりの労働者を確保することが困難である必要があり、使用者が代わりの労働者の確保の努力をしないまま時季を変更することはできないとされます。使用者にどの程度の努力が必要かについては、事案毎の個別的判断が必要ですが、通常は、代替勤務の可能性が高いと思われる者へ打診することで足りるとされます(東京高裁平成12年8月31日判決)。もっとも、恒常的な人員不足から、代わりの労働者を確保することが常に困難であるという状況は、労働者の有給取得を拒否することを正当化するものではありません(名古屋高裁金沢支部平成10年3月16日判決)。

先述の人手不足の例においても、具体的な事案に応じた判断が必要とはなりますが、まずは、適切な業務量予測に基づいて、人員不足を解消する必要があると考えられます。当該状況を整えた上で、使用者が他のドライバーに打診するなどの配慮を尽くしたにもかかわらず、代わりの勤務者が確保できないのであれば、年休の取得日を他の日に変更できる可能性は高くなるといえるでしょう。

 もし、使用者による不適法な年休の時季の変更がなされた場合は、労働者への慰謝料や労働者が予定していた旅行のキャンセル料(大阪地裁平成10年9月30日判決)などといった損害賠償責任が生じることもありますので、注意が必要です。

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