交通事故の際に企業が被る損害について(2)

交通事故の際に企業が被る損害について(2)


弁護士 日向祥子

 

前回に引き続き、交通事故の際に企業が被る損害について、お話したいと思います。

 

今回は、物損の中の「評価損」についてお話します。

事故によって損傷した自動車は、修理しても、

 

・修理技術上の限界から、自動車の性能、外観等が事故前より低下すること

・事故による衝撃から、車体や部品に負担がかかり、経年的に不具合がおこりやすくなること

・隠れた損傷があるかもしれないと疑われたりすること

 

などから、「事故歴車」「修復歴車」などと呼ばれて、売却価格・下取価格が事項に遭わない同種の車に比べて低く評価されます。このような商品価値の下落が認められる場合の損失を「評価損」といいます。

 

評価損は、事故によって車を修理すれば必ず発生するとはいえません。発生する場合もあれば、発生しない場合もあり、この基準はいまだ明確ではありません。ただし、初度登録から事故日までの期間が短いほど、また、損傷の程度が大きいほど、認められやすいということはできるでしょう。

 

このように、評価損は発生の事実が曖昧であることに加え、その算定も困難な面があります。

これは、評価損とは、修理してもなお完全に修復しえない損害ですので、事故直前の車両売却価格から、事故後の未修理車両売却価格と修理費を差し引いた額ということになりますが、この「事故後の未修理車両価格」の算定は、何によればいいのか、適切な資料がないためです。

 

 裁判例の大勢は、評価損を認める傾向にあるといえますが、認容した場合の評価損算出基準には、

 

〆抗朶霆燹併故直前の車両売却価格と修理後の車両売却価格との差額)

⊇ね費基準(裁判所が認容した被害自動車の修理費の一定割合)

時価基準(裁判所が認容した被害車両の時価の一定割合)

ち躪膣案基準(車種、初度登録からの経過年数、修理金額等の事情を総合勘案)

 

の4つがあります。

 

上記4つの算定基準の中で、件数的には⊇ね費基準がもっとも多く、その中で、修理費の30%とするのが最も多いとされています。

 

以 上

配転命令の際の注意点

弁護士 皸罅〃魄

 

 配転(配置転換)とは、労働者の配置の変更のうち、企業内における職務内容または勤務地の変更であって相当長期間にわたるものをいいます。

 

多くの企業で主として行われている新卒一括採用では、労働者が入社後、どのような仕事に従事するのかについて、明確な取り決めをせずに労働契約が締結されます。そして、長期雇用を前提とした正社員を中心に、その適性発見、能力開発、組織の活性化等を目的として、ローテーション人事により活発に配転が行われています。

その背景には、多くの場合、職務内容や勤務地が変わっても、賃金には基本的には影響しないことがあるといえます。

もっとも、転居を伴い家庭生活に大きな影響を及ぼす場合もあり、労働者の意思に反する配転についてその効力が争われることがあります。 

そこで、配転命令を行う場合の注意点についてみてみたいと思います。

 

 配転は職務内容や勤務場所という労働契約の基本的内容の変更であるため使用者が本人の同意なく配転を行う場合には、配転命令権を有することが必要となります。以前当ブログでも触れられているように、本人の同意を要さない配転命令権を基礎づけるためには、就業規則または労働協約で一般的配転条項を規定しておくことが前提となります。

 

職種または勤務場所を限定する労働契約が締結されている場合には本人の同意なく配転を命じることはできませんが、さらに配転命令が権利の濫用に当たる場合も、配転命令は無効となり、効力を生じません(労働契約法35項参照)。

 

この点については、転居を伴う転勤命令に関して東亜ペイント事件最高裁判決判決(最判昭61.7.14)が基本的な判断基準を示し、以後の配転命令の合理性判断に関する裁判例に大きな影響を与えました。近年の裁判例でも、本判決の該当部分が引用されているものは多数あり、引用はしないまでも本判決の枠組みを踏まえた判断をしているものもかなりの数に上ります。

 

 上記判例は以下の場合に配転命令が権利濫用にあたり無効になるとしました。

1に、そもそも配転命令に業務上の必要性がない場合です。

第2に、業務上の必要性はあっても、「特段の事情」がある場合です。

「特段の事情」とは、配転の業務上の必要性とは別個の不当な動機・目的をもってなされた場合や、その労働者に「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を負わせるものである場合などです。「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とは、配転命令の業務上の必要性に比し、その命令がもたらす労働者の職業上ないし生活上の不利益が不釣り合いに大きい場合といえます。

 

 東亜ペイント事件では、転居を伴う配転命令が有効とされました。単身赴任を余儀なくされる場合でも「通常甘受すべき程度」を著しく超えるような不利益を被るとはみなされないのが本判決以降の傾向といえると思います。

 

 ただ、疾病や障害をもつ家族がいる労働者に対する転居を伴う配転命令は「通常甘受すべき程度著しく超える不利益を負わせるもの」として無効とする裁判例があります(北海道コカ・コーラボトリング事件:札幌地決平11.7.15など)。

加えて、平成13年に改正された育児介護休業法26条では、子の養育または家族の介護状況に関する使用者の配慮義務が定められ、平成19年に制定された労働契約法33項では「労働契約は」「仕事と生活の調和にも配慮しつつ」行われるべきとするワークライフバランス条項が定められました。

 

ネスレジャパンホールディング事件(最決平20.4.18)では、育児介護休業法26条の配慮義務規定を援用した上で、家族の中で単に共稼ぎ上の不利益ではなくて、精神病の妻や要介護者とか、そういった療養などの必要性がある場合について、転勤命令が権利濫用で許されないとの判断がなされました。

 

現在では、配転命令を行う際に病人・障害をもつ人の介護のみならず育児のための必要性や夫婦や家族の一体性などに対し配慮をしていく必要性が以前に比べると増している傾向にある点に注意する必要があると思われます。

 

以上

新株予約権について

弁護士  河上 知子

今回は、新株予約権についてお話したいと思います。 

新株予約権とは、新株予約権者が、会社に対して、ある価格を払い込めば、当該株式会社の株式を受けられるという権利です。

 株式の時価と新株予約権の権利行使価格の差額が新株予約権者の利益となりますが、新株予約権の価格はあらかじめ決められていますから、当該会社の株式の時価があがればあがるほど、新株予約権者は利益を手にすることになります。

 このような新株予約権は、例えば、取締役や従業員に対するストック・オプションの付与として、またはベンチャー企業など資金力が乏しい企業の資金調達手段として利用されています。前者は業績があがればそれだけ利益を手にすることが出来るので、取締役や従業員のインセンティブとして強く働き、後者は将来の会社の可能性を買ってもらうということになります。

また、新株予約権は買収防衛策としても利用されています。

 買収防衛策の導入時は買収者の登場前、つまり平時になされることが原則です。有事における買収防衛策として株主に対する新株予約権の発行が使われた場合は、特定の株主の持ち株比率を下げることが特定の株主を狙い撃ちにすることになり、株主平等原則の趣旨に抵触して許されないのではないかが問題となります。今回は、有事における新株発行の可否が問題となった有名な事件としてニッポン放送事件を紹介します(東京高裁平成17年3月23日決定)。

 この事案は、ライブドアがフジテレビ企業の関連会社であったニッポン放送の株式を総議決権の38%近くまで買い占めたため、ニッポン放送はライブドアの買収を阻止するために、フジテレビに対し、発行済株式総数の1.44倍にあたる新株予約権の発行を決議し、これに対してライブドアは新株予約権の発行差し止めの仮処分を東京地裁に申請したという事案です。

 裁判所は、有事の場面において、会社の経営支配権を争う株主の持株比率を低下させ、特定の株主の経営支配権を維持・確保することを主要な目的として新株予約権の発行をすることは原則として許されないとしつつも、株主全体の利益の保護という観点から新株予約権の発行を正当化する特段の事情があり、(会社を食い物にしようとしている場合)なおかつ対抗手段として必要性や相当性が認められる場合には例外的に許される旨述べています。

 そして、ニッポン放送の新株予約権の発行には特段の事情は認められず、新株予約権の発行はニッポン放送の権限濫用であると判断されました。

 

以上

                                   

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