競合他社に転職したドライバーに対して退職金を不支給とすることの可否

                                                                    AVANCE LEGAL GROUP LPC
                                                                                  代表弁護士 片山 雅也

弁護士 那賀島 八起

物流業界ではドライバーの人手不足が深刻な問題となっており、ようやく育て上げた自社のドライバーが競合他社に転職すると、会社にとって大きなダメージとなり得ます。では、競合他社への人「財」の流出を防止するために、たとえば競合他社へ転職するドライバーに対して退職金を不支給とする旨の規程を置くことはできるでしょうか。

退職後に競合他社に転職した場合に退職金支給額を自己都合退職の場合の「半額」とする旨の退職金規程について、最高裁は、会社が退職金規程において、競業避止義務に反した退職社員の退職金を一般の自己都合による場合の半額と定めることも、退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない旨を述べて、その有効性を認めています(最二小昭和5289日判決)。 

もっとも、裁判所は退職金の減額・不支給規程を無限定に容認しているわけではなく、当該退職金制度の性格や、減額・不支給の理由など諸般の事情を斟酌したうえで、個別の事案ごとに判断しているのが現状です。たとえば、退職金「全額」不支給処分が争われた名古屋高裁平成2831日判決は、退職金が労働の対償である賃金の性質を有することや、退職金の減額にとどまらず全額の不支給という、退職従業員の職業選択の自由に重大な制限を加える結果となる極めて厳しいものであることを考慮すると、退職金を支給しないことが許容されるのは、単に競業関係に立つ業務に携わったというだけでは足りず、退職従業員に、労働の対償を失わせることが相当であるほどの顕著な背信性がある場合に限られる旨を述べています。そして、背信性の判断にあたっては、会社にとっての不支給条項の必要性、従業員の退職に至る経緯、退職の目的、競業する業務に従事したことによって会社の被った損害などの諸般の事情を総合的に考慮すべきことを示しています。

この裁判例に沿って考えてみますと、ドライバーは営業機密等を有する等重要なポジションではないため、ドライバーが一人退職したところで運送会社が重大な損害を被る事態は考えにくく、会社にとっての不支給条項の必要性は大きくないと考えられます。他方で、ドライバーが退職後の生計を立てるにはこれまで培ってきたノウハウを活かしてドライバーとして再就職することが重要といえます。したがって、単に競合他社に就職したことのみをもって、退職金を全額不支給とすることは困難と考えられます。

これに対して、部下を大量に引き連れて退職し、新たに競業会社を設立し、取引先の多くを奪ったなどという事情がある場合においては、労働の対償を失わせることが相当であるほどの顕著な背信性があるといえるため、退職金規程により退職金を不支給とすることや場合によっては損害賠償責任を追及することも認められると考えられます。

退職金規程を運用する際は、一律に運用するのではなく、個々のケースごとに検討して運用する必要性がありますのでご注意ください。

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燃料費の高騰を理由とした従業員解雇の可否

弁護士法人アヴァンセリーガルグループ
代表弁護士 片山 雅也
弁護士 児玉 政己 

 

近年、燃料費の高騰が問題となっておりますが、燃料費高騰等による経営状況の悪化を理由とした従業員の解雇は許されるのでしょうか。

この点、ある会社Yが、リーマンショックによる売上の急減(月売上比最大25%減)、燃料費高騰に伴う採算性の悪化を受けて行った運転手Xへの整理解雇につき、1審が解雇を無効としたため、Yが控訴したという事案があります(東京高判平成25年4月25日)。

まず、裁判所は、整理解雇の有効性について、経営不振等、経営上の十分な必要性に基づくものか、又はやむを得ない措置と認められるか(整理解雇の必要性)、労働者の不利益がより小さい、客観的に期待可能といえる他の措置を取っているか(解雇回避努力義務の履行)、被解雇者の選定方法が相当かつ合理的なものであるか(被解雇者選定の合理性)、使用者が解雇の必要性・時期・規模・方法等について説明をし、労働者と十分に協議しているか(手続の妥当性)等の事情を総合考慮した上で、当該解雇にやむを得ない客観的かつ合理的な理由があるかという観点から判断する、としました。

そして、,らい粒突彖任乏催する事実として、。戮録卦融資が受けられず、ワークシェアリング等勤務体制の変更、役員報酬や従業員の給与の削減等の措置を講じた上、顧客から代金前払いを受けつつ、消費税や社会保険料の支払いを留保して、ようやく給与等の支払原資を確保できたという状況にあったこと、▲錙璽シェアリングや退職勧奨等を講じたうえ、他部署の従業員も大幅に削減していたため、Xを配置転換することは困難であったこと、Xの言動が協調性に欠けており、他に成績等の観点から解雇すべき従業員が存在しない中で、業務の円滑な遂行という観点からXを解雇することには一定の経営的合理性が認められること、ぃ戮凌涌削減の方針はXも当然に承知していたし、YからXに対し協調性を重視して選定したことは伝達していたから、解雇の違法性を基礎付けるほどの手続上の事由があるとは認められない、と認定して、Xの解雇を有効と判断しました。

このように、燃料費の高騰等により経営状況が悪化した場合でも、裁判所は、当該事由に基づく解雇を当然には有効とはせず、上記,らい4つの基準に該当する事実を確認したうえで、当該解雇が必要やむを得ない措置であったのかを厳格に判断しています。今後、さらなる燃料費の高騰等によって整理解雇を検討せざるを得なくなった際には、上記事例及び基準にご留意いただければと思います。

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人事労務における潜在債務発見に向けた法務DD (全国賃貸住宅新聞10/13号掲載)

   執筆者/弁護士法人アヴァンセリーガルグループ 代表弁護士  片山 雅也
                                   パートナー弁護士  家永 勲


前回は、就業規則や労働契約の種別など、M&Aの対象となる会社におけるルールや契約形式についてご紹介しましたが、今回は労働実態についてご紹介します。潜在している債務を可能な限り洗い出すことは非常に重要と考えられますが、人事労務関係は、潜在している債務が非常に生じやすい分野といえます。

典型的には、時間外割増賃金、いわゆる未払い残業代の有無です。所定労働時間どおりに働いていればよいのですが、労働実態を見つめてみれば、やはり仕事の繁閑や突然の業務によって、残業が生じてしまっていることがほとんどといわざるを得ません。

タイムカードなどによる労働時間の記録上は、残業した記録は残っていない場合でも、従業員から労働実態をヒアリングしていくと、所定労働時間においてタイムカードを切った後に、改めて仕事を再開しているといった会社があるなど、労働時間管理が適正に行われていない場合もあり、このような場合は従業員に対する時間外割増賃金の支払債務が発生していることとなります。

また、事務所の外で業務を行っている従業員については、事業場外労働を行っているものとして、所定労働時間働いたものとみなし、残業代が支給されていない場合もあります。確かに、事業場外における労働時間は、算定することが困難な場合には、所定労働時間働いたものとみなす制度ですが、例外もあります。たとえば、所定労働時間内では到底終了しない業務を行っていた場合には、「通常必要とされる時間」働いたものとみなされる結果、時間外割増賃金が発生することになります。

そもそも、事業場外における労働時間の算定が困難ではない場合には、この制度を利用することができません。事業場外で働いているものの、訪問先を会社からの指示に基づき定められ、訪問先での業務を終えるごとに携帯電話からの報告を求めるなどの方法で、いつ業務を終えたのか把握することができるような場合には、事業場外労働による労働時間のみなし制度を適用することはできず、時間外割増賃金が発生するおそれがあります。

このほか、何時間分の残業代であるかなどの内訳が明らかではない「みなし残業手当」の支給が行われている場合なども時間外割増賃金の発生原因となりえます。

このような時間外割増賃金の発生原因は、労働実態のいたるところに潜んでいるといわざるを得ません。しかしながら、すべての労働時間管理を完璧に行うことができている企業は必ずしも多くないため、人事労務における潜在債務の発見においては、どの程度のリスクが潜在していると見込まれるのかという点を見極めることが重要となります。

 

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