従業員に対する所持品検査

           執筆者/AVANCE LEGAL GROUP LPC 代表弁護士 片山 雅也
                                        弁護士 増谷 嘉晃
                                                     

「危険ドラッグ」を吸って、正常な運転ができない状態でタクシーを運転したとして、タクシードライバー(当時)が道交法違反で逮捕される事件が発生しました。

使用者による対策としては、講習会による啓発などの他に、従業員の所持品検査が考えられます。しかし、所持品検査は、人権侵害を伴うおそれが大きいものです。それでは、使用者が、所持品検査を行うことは可能なのでしょうか。

 この点、判例(最高裁昭和4382日判決)は、私鉄の使用者が、「社員が業務の正常な秩序維持のためその所持品の検査を求められたときは、これを拒んではならない」との就業規則の条項に基づき、靴の中の検査を実施しようとしたところ、被検査者の一人が靴を脱ぐことを拒否したことから、懲戒解雇したという事案において、仝〆困鯢要とする合理的理由の存在、検査の方法が一般的に妥当な方法及び程度で行われること、制度として職場従業員に対し画一的に実施されるものであること、そ業規則その他明示の根拠に基づくことを要件として、所持品検査に対する従業員の受忍義務を認め、懲戒解雇を適法と判断しています。

本判例の事案では、従業員の金品の不正隠匿の摘発・防止が目的でしたが、薬物使用防止のための所持品検査も本判例の判断枠組みに従って判断されることになると思われます。それでは、「危険ドラッグ」の所持品検査をする際には、どのようなことに注意するべきでしょうか。

第一に、要件,亡悗靴董¬物使用防止を目的とした所持品検査は、人命にもかかわることですから合理的理由はあるといえると考えられます。

 第二に、要件△亡悗靴董肉体に直接触れる、下着姿にさせるといった方法での検査は、妥当な方法とはいえないおそれがあり、裁判例でも、「身体」検査を伴う所持品検査は違法とされる傾向にあります。そのため、所持品検査を行う場合は、従業員の名誉やプライバシー等に最大限の配慮を図る必要があると考えられます。

 第三に、要件に関して、疑わしい者に対してのみ狙い撃ち的に検査を行うことは画一的ではないとされる可能性があるため、全員に一律に行う必要があります。

 最後に、要件い亡悗靴董⊇業規則その他明示の根拠規定が存在しないにもかかわらず、所持品検査を行ったことが違法であるとして、従業員からの慰謝料請求が認められた裁判例があります(浦和地裁平成31122日判決)。所持品検査をする場合は、必ずあらかじめ就業規則等の条項を作成しておく必要があります。

 なお、所持品検査が適法であったとしても、懲戒処分が過酷に過ぎる場合は、懲戒権の濫用として当該処分が無効になる可能性もありますので、懲戒処分が相当かどうかについても注意をする必要があります。


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雪の季節の困った話(ニューズレター【不動産業界】vol.4掲載)

執筆者/AVANCE LEGAL GROUP LPC パートナー弁護士 家永 勲
執筆者/AVANCE LEGAL GROUP LPCアソシエイト・弁護士 中村 圭佑


Q
先生ひさしぶり。
最近寒くなりましたねえ。東京でも雪が降っているそうですけど、私の暮らす秋田では、もう本格的な雪の季節になっているんですよ。
東京なんて、数センチ積もったら大騒ぎかもしれないけど、秋田では多い時には数メートル積もりますからもう大変なんです。
今年も既に結構積もっちゃっていて、ただね、先生、私もそんなに若くないし、屋根からの雪下ろしも手間なんです。だから、去年なんかほったらかしにしてた時もあったんですよ。
それで去年の話なんだけどね、ちょっと雪をほったらかしにしてたら、春先ちょっとあったかくなったときに、屋根の雪が落下して、たまたまうちの屋根近くに停まっていた隣の放蕩息子が空ぶかししてた車の上に落ちちゃって、車のボンネットがね、もうべっこり。
あら大変ねえ、怪我なくてよかったわねえ、なんて思っていたら、その放蕩息子が怒鳴り込んできてね。
雪下ろししてないなんてどういうことだ!弁償しろ!!なんていってきたのよ。
でも、雪下ろしをあまりしてなかったからとはいえ、そもそも雪のせいだし、私に責任なんてあるのかねえ。 


A
屋根からの落雪により第三者に損害を与えた場合、家の所有者又は占有者は、当該損害が発生し得ることについて、予見可能性及び結果回避可能性があれば、損害賠償責任を負う可能性があります。
 
本件では、秋田という雪国の性質からして、雪下ろしが必要なほどの積雪が生じることは通常予見できることであるところ、落雪により通りかかった第三者等に損害が発生し得るものであって、当該損害の結果は適宜雪下ろしにより回避することが可能であるため、車のボンネットの修理代分の損害賠償責任を負うことになるものと考えられます。
 
なお、急な積雪により雪下ろし等の対処ができなかった場合や、第三者が他の道を通行できるのにわざわざ雪下ろしされていない屋根の下を通った場合などには、損害賠償責任を負わないか、過失相殺により賠償額が一部減額される余地があります。


■さらに詳しく

雪の季節ともなると、弊所にも雪に関する相談が多く寄せられます。その中でも、特に屋根等からの落雪により、隣家や通行人等に被害が生じた場合の損害賠償責任についての質問が多いように思われます。
 
そこで、今回は、特に落雪に関して損害が生じた場合の法律関係について、解説いたします。
 
落雪が生じた場合に問題となるのは、不法行為(一般的な不法行為、及び工作物責任に関する不法行為)です。
 
不法行為というためには、行為者(本件では家の所有者又は占有者。以下、「所有者等」といいます。)に第三者の権利を侵害しないために何らかの義務があるにもかかわらず、当該義務を果たさなかったといった関係が必要であるところ、雪国では積雪が当然に予想され、当該積雪により隣家や通行人等に被害が生じることが予想される(予見可能性がある)ことから、一般的に家の所有者等には当該損害が生じないよう措置を講じる義務があるものと考えられます。
すなわち、家の所有者には雪を降らせないといったような措置を取ることはできないのは当然としても、採りうる措置、より具体的には落雪が生じないように雪下ろしや落雪防止設備等を設置する義務等はあるものと考えられます。
 
そのため、本件のように大変だからと雪下ろしを怠ってしまうと、上記義務に違反しているものとして不法行為責任を負う可能性があるのです。
 
落雪に関する裁判例としては、例えば東京地裁平成21年11月26日判決がありますが、家の屋根からの落雪により隣接のペンションの壁面が内部に押し込まれ、かつボイラーの煙突が曲がった等の事案において、家の所有者に損害賠償責任を認めています。
 
もっとも、雪下ろしを適切に行っていたり、十分な落雪防止設備等を設置しているにもかかわらず、予想外の大雪等により損害が発生してしまう場合もありえます。
そのような結果を回避することができない場合(結果回避可能性がない場合)にまで、不法行為が成立するわけではないため、具体的な事情によっては損害賠償責任を負わない可能性もあります。
 
また、雪国等の場合、通行人等も落雪があり得ることを当然予期・注意すべきであることから、通行人等がわざわざ落雪の危険性のある屋根下等を通行したような場合には、過失相殺等により、損害賠償責任が減額される可能性もあります。 

以上のように、原則として、家の所有者等は、落雪により第三者に発生した損害を賠償する責任を負う可能性がありますので、雪下ろしや落雪防止設備等、十分な措置を取ることが求められています。
落雪の被害は、本件のように物だけに限らず、人に及ぶ可能性もあり、その場合には損害額も莫大なものとなりえますので、ご注意ください。 


※ 当記事は、2015年2月発行「AVANCE LEGAL GROUP LPC ニューズレター」【不動産業界】vol.4に掲載した内容です。
本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。
AVANCE LEGAL GROUP LPC 企業法務ホームページにて、PDF版ニューズレターをご覧いただくことができます。
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従業員が犯罪を犯し有罪となった場合の解雇について


      執筆者/AVANCE LEGAL GROUP LPC 代表弁護士 片山 雅也
                                      弁護士  那賀島 八起

今回は、従業員が職務外で犯罪を犯し有罪となった場合に、会社は解雇できるのかを考えていきます。たとえばトラックドライバーが、休日に、〃嘩をして暴行罪で有罪となった場合、飲酒運転で有罪となった場合のそれぞれにおいて会社は懲戒解雇をすることができるでしょうか。

  多くの会社では就業規則において、懲戒解雇事由として、「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」等の規定が定められています。従業員が犯罪を犯して有罪となった場合は、この懲戒解雇事由にあたり得ると考えられます。

  もっとも、裁判例の多くは、職務外でなされた職務遂行に直接関係のない私生活上の行為によって有罪となったからといって、直ちに懲戒解雇事由となることを認めているわけではありません。この点、最高裁の判例の中には、当該行為の性質、状況のほか、会社の事業の性質、態様、規模、会社の経済界に占める地位、経営方針、その従業員の会社における地位、職場など諸般の事情から総合的に判断して従業員の解雇の有効性を判断したものがあり、参考になります(最高裁昭和49年3月15日判決)。

  当該判例の立場からすると、〃嘩をして暴行罪で有罪となった場合、暴行罪は比較的軽い刑事処分になる場合が多いため、当該従業員の勤務態度が真面目であり、初犯であるなどの事情があれば、当該行為が業務に及ぼす影響や会社の信用を棄損する度合いは高くはないと考えられ、その結果、懲戒解雇が無効と判断される可能性もあります。そのため、事案に応じた慎重な判断が求められることになります。

  他方、飲酒運転で有罪となった場合は、当該トラックドライバーが自動車を扱う運送会社において運転業務に従事する者であることからすれば、当該行為が業務に及ぼす影響や会社の信用を棄損する度合いは大きいと考えられます。この点、タクシー会社の運転手が同僚に酒を勧めて飲ませたうえ、その同僚が運転する自家用車に同乗したという事案において、タクシー会社においては「こと自動車運転に関する限り、他の企業と比較してより厳しい規制がなされうる合理的な理由があるものというべき」として、当該運転手の懲戒解雇を有効と判断した裁判例があります(仙台高裁昭和50年10月16日判決)。その他、バスの運転手が休日に飲酒運転をして罰金刑に処せられた事案や、貨物自動車運送業のドライバーが業務終了後の帰宅途中に飲酒して自家用車を運転し、酒気帯び運転で検挙された事案において、解雇ないし懲戒解雇を有効と判断した裁判例があります。

 以上のような考え方に照らせば、トラックドライバーが飲酒運転で有罪となった場合は、〃嘩をして暴行罪で有罪となった場合よりも、懲戒解雇が有効と判断される可能性は高くなるといえるでしょう。

  併せて、判例の立場からすれば、裁判で有罪が確定していない逮捕の段階で、直ちに懲戒解雇を行うことは認められない場合もあるということに留意する必要があります。


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