雇用の継続可能性を記載する契約書や就業規則が存在する事案で雇止めが有効とされた裁判例〜東京地裁平成25年12月25日判決〜(ニューズレターvol.28掲載)

執筆者/弁護士法人アヴァンセリーガルグループ 代表弁護士 片山 雅也
執筆者/弁護士法人アヴァンセリーガルグループ(大阪支部所属) 弁護士 藤田 大輔


.事案の概要
 X(平成23年11月5日に満60歳となる男性労働者)は、平成21年3月11日、化粧品等を販売する株式会社であるY社との間で、A工場内において技術部として工場の施設や機械の整備、調整、修理、設計等を行う技術的な業務を行うことを内容とする労働契約(以下「本件労働契約」といいます。)を締結しました。
 雇用契約書によれば、Xの雇用期間は平成21年3月11日からXが満60歳となる平成23年11月5日までと規定されていました。
 Y社は、平成23年9月29日、Xに対し本件労働契約の更新は行わず雇用期間が満了する平成23年11月5日で本件労働契約が終了する旨を口頭で通知しました(以下「本件雇止め」といいます。)。
 しかし、Xは、本件労働契約は有期労働契約ではなく期間の定めのない労働契約(正社員としての雇用)であり定年後の嘱託社員としての権利を有すること、本件労働契約が有期契約であった場合には本件雇止めが無効であること等を主張し、Y社を被告として民事訴訟を提起しました。  


.争点
本裁判では、以下の4点が主要な争点となりました。
)楫鈩働契約は有期労働契約なのか期間の定めのない労働契約なのか。
∨楫鈩働契約が有期労働契約であったとしても期間の定めのない労働契約に転化していたとい
  えないか。
K楫鈩働契約が期間の定めのない労働契約に転化していないとしても本件労働契約の継続につ
  いてXの合理的な期待があったといえないか。
に楫鈩働契約が有期契約であった場合、Y社による本件雇止めは有効か。


.東京地裁平成25年12月25日判決の判断
<争点,紡个垢詒獣>
 本件労働契約は雇用期間が明確に定められていた点や、Xは雇用継続への合理的期待が生じたことを理由に本件雇止めの撤回を求める文書を郵送しており本件労働契約が有期労働契約であることを前提にした行動をとっていた点に着目し、本件労働契約は有期労働契約であると判断しました。

<争点△紡个垢詒獣>
 有期労働契約が期間の定めのない労働契約に転化しているような場合とは、有期労働契約が反復更新されて期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態となった場合であると判示したうえ、本件労働契約において雇用期間が明確に規定されている点や、一度も更新されたことがなく本件雇止めが行われた点に着目し、本件労働契約が期間の定めのない労働契約に転化していたと評価することはできないと判断しました。

<争点に対する判断> 
 Xの担当業務は広く技術部全体に及ぶものであり臨時的な業務であったとは認めがたい点、雇用契約書には特約事項として60歳以降は6か月単位の嘱託契約が予定されているかのような記載があり、実際にY社の準社員就業規則には60歳以降の労働者を嘱託社員として雇い入れることが規定されている点等に着目し本件労働契約については契約継続に対するXの合理的な期待が存在したと認めるのが相当と判断しました。 

<争点い紡个垢詒獣>
 Y社は様々な雇止め理由を主張しましたが、裁判所はY社が主張する雇止め理由のうち、Xが重要な取引先に対し取引先やY社の利益を害する発言を勝手に行いY社の信用を著しく傷つけたこと、Xに属さない特許権についてX自身に属する旨を頑強に主張し続けたことが客観的に合理的な雇止め理由となると判断しました。
 また、本件労働契約はそもそも有期労働契約であり、契約期間も2年8か月で一度も更新された事実がないこと等の事情からは契約継続につき期待があるといっても、さほど高度の期待があるとまではいいがたいことをあわせて考えると本件雇止めには、客観的に合理的な理由があり社会通念上も相当であるといえ本件雇止めは有効であると判断しました。


.本裁判例にみる実務における留意事項
 有期労働契約であっても、期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態となった場合や、契約継続に対する労働者の合理的な期待が生じた場合など、労働契約の継続による労働者の利益が法的保護に値すると評価されるような場合には、雇止めについても解雇規制に類似する規制(以下「雇止め規制」と言います。)が及ぶことが最高裁判例により認められてきました。
 現在、平成24年の法改正により雇止め規制は労働契約法第19条により明文化されています。
 雇止め規制が及ぶかの判断要素としては、/μ各睛討箒侈骸詑屬寮擬勸との近似性、雇用管理区分の状況、7戚鷙洪靴硫鷽瑤箒仟廓数、す洪啓蠡海梁嵳佑筝軍覆機↓セ藩兌圓砲ける雇用継続を期待させる言動の有無、β召力働者の更新状況等の要素が考慮されます。
 本裁判例は、一度も契約更新されていないにもかかわらずXの業務内容や雇用契約書や就業規則の内容に着目し雇止め規制を広く適用したうえで、雇止めの合理性判断の場面では契約更新が無いことを踏まえた実質的な判断を行った点に特色があります。
 本裁判例を踏まえ使用者側が雇止めを有効に行うための留意事項を検討すると、雇用契約書に有期契約であることを明確にすること、正社員が行うような基幹業務に専属的に従事させないこと、労働者に契約継続を期待させるような内容の契約条項や就業規則を設けないこと、契約の更新手続を行う場合には有期労働契約の更新手続であることを明確にすること、使用者側が労働者に契約継続を期待させるような言動を行わないこと等に留意すべきであるといえます。
 もっとも、雇止め規制が及ぶ場合においても、客観的に合理的な理由が存在し、かつ、雇止めを行うことが社会通念上相当であると認められる場合には雇止めが有効となりますので、雇止めを正当化する事由が生じた場合には使用者側において証拠を残しておくべきでしょう。



※ 当記事は、2014年8月発行「弁護士法人アヴァンセ ニューズレター」Vol.28に掲載した内容です。
本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。
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みなし残業代の取扱いには要注意

弁護士法人アヴァンセリーガルグループ

代表弁護士 片山 雅也

 

従業員の労働時間の管理は企業にとって重要な課題です。従業員がどれくらい働いているかを把握し損ねると、思わぬ形で残業代を請求されるリスクがあります。

そのリスクを避けるため、みなし残業代又は定額残業代といった制度を採用している会社もあるのではないでしょうか。しかし、みなし残業代はあくまでも一定時間分の残業代を前払いしているにすぎず、一定時間以上に労働した場合には残業代が発生するものであり、みなし残業代以外は残業代を支払わなくてもよい、という制度ではないという点に留意が必要です。

また、みなし残業代と基本給等を厳格に区別して運用しなければ、みなし残業代自体の有効性にも問題が生じます。この点に関し、最高裁(平成2438日判決)は、基本賃金にみなし残業代180時間分が含まれているという制度設計をとっていた会社に対して、当該制度設計では通常の賃金と残業代を明確に区別することはできない等として、180時間以内の残業であっても、別途、残業代を支払う義務があると判示しました。

さらに、東京地裁(平成25228日判決)は、みなし残業代の有効性の基準として、,澆覆兄超搬紊時間外労働の対価としての性格を有していること、∀基法所定の額が支払われているか判定できるような指標等が存在すること、O基法上、みなし残業代以上に残業代が発生する場合には精算する合意又は取扱いが存在すること、を挙げています。

当該東京地裁の事案においては、精勤手当にみなし残業代が含まれているという制度設計をとっていたものとして有効性が否定されましたが、物流業界で想定されるのは、歩合給がみなし残業代であるという制度設計です。歩合給に関しては、時間的要素のみならず、仕事量等他の事情に応じて増減するものであると考えられることから、歩合給をもってみなし残業代とする制度設計の有効性は否定される可能性が高いと考えられており、最高裁(平成6613日判決)も同様の立場をとっています。

そのため、歩合給を設定する場合等には、当該歩合給も含めて残業代の算定根拠とし、そのうえで別途みなし残業代を支払う必要があります。みなし残業代を採用する予定の会社のみならず、現在採用している会社も、適切に制度設計がなされているか、これを機に確認してみてはいかがでしょうか。

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従業員のメンタルヘルス不調等による労災申請の対応

執行役員・弁護士 片山 雅也

 

 昨今、従業員の方やそのご家族が、従業員のメンタルヘルス不調の原因は会社の業務に起因するとして、会社に対して労災申請の証明を求めてくるケースが増加しており、このような要求について、会社としてどのような対応をした方が良いのかというご相談を受けるケースが増えています。

例えば、従業員の方が、長時間労働や上司のパワハラが原因でうつ病や適応障害になった旨主張してきても、会社としては、残業は多少あるものの、それほどの長時間労働はなく、また、上司の指導はあったものの、パワハラはなかったという認識の場合、その認識にずれがあり、会社としては労災申請の証明に応じたくないというケースが見受けられます。

そもそも、労災保険法施行規則232項により、「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない」と定められています。そのため、従業員の方から労災申請をしたい旨の主張がなされているにもかかわらず、その主張を無視することは避ける必要があります。

とはいえ、事実関係の認識自体に大きな違いが生じているような場合、会社としても従業員の方が主張する労災申請の証明をそのまま受け入れることはできないこともあり、このような場合、会社としての意見もしっかりと主張しておく必要があります。また、このような意見を申し出ることができる制度も存在します。具体的には、労災保険法施行規則23条の2において、「事業主は、当該事業主の事業に係る業務災害及び通勤災害に関する保険給付の請求について、所轄労働基準監督署長に意見を申し出ることができる」と規定されています。

そこで、会社としては、従業員の方のメンタルヘルス不調に関連する労災申請の主張を無視するのではなく、争う余地のない従業員の氏名、住所、職種及び平均賃金等は認める一方で、会社と従業員の方との間で事実関係について認識の違いがある「災害の原因及び発生状況」については、会社側の意見を記載した書面を別途、労働基準監督署長に提出するという対応が考えられます。

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